以下は、茶の専門家・池宗憲(いけ そうけん)先生が『明報月刊』に寄稿された原文記事です。原文をそのままに、日本語訳としてお届けいたします。


池宗憲|茶学専門家

多様な料理が、茶を中心に華やかに変身する──。手元の烏龍茶、鉄観音、武夷茶を試してみれば、まったく新しい「ティーペアリング」の美味しさが広がります。

日本の伝説的レストラン「茶懐石」が、今年三月、台北でポップアップイベントを開催しました。一日二回、各回8,000台湾ドルのコースにも関わらず、全回が満席。そこには一体どんな魅力があるのでしょうか?

茶懐石のシェフ・川田智也氏は、「ワインペアリング(Wine Pairing)」の概念をお茶に応用し、「ティーペアリング(Tea Pairing)」として、日本・台湾・中国茶の風味を活かした食の演出を目指しています。その成果は、ミシュラン三ツ星レストランでもワインとは異なる魅力を放つ味わいとして評価されています。たとえば、烏龍茶とメインディッシュを合わせれば、味の層が広がり驚きの体験に。食後にいただく茶湯には、灰蓮餅(灰色の蓮の実を使った和菓子)が添えられ、穏やかな余韻を楽しめます。

スペイン、アメリカ、日本の三ツ星レストランで、私は何度も「茶と料理」のペアリング体験をしてきました。

日本で18年連続でミシュラン三ツ星を獲得している日本料理店「かんだ」のシェフ・神田裕行氏は、懐石料理の繊細さを壊さぬよう、食事の終わりに日本茶器で干し柿を提供します。「日本料理にアルコールは不要。茶こそが口中を清める存在です」と語るその言葉に、お茶の清らかな妙味が込められています。

スペイン・バスク地方の「Restaurante Martin Berasategui」では、主厨マルティン・ベラサテギ氏が、一日約105品もの創作料理を提供。ある日登場したのは、燻製したジャガイモと茶餅を組み合わせた一品。燻製の香ばしさが茶と絶妙に融合し、温かい茶の清廉な余韻が喉を乾かすことなく上品に残りました。

ニューヨークの三ツ星「Eleven Madison Park」は、「世界のベストレストラン50」にも選ばれた名店です。私は明代(1368年〜1644年)の茶碗を持参し、レストランにこう語りました。「ガラスの器よりも、土ものの茶碗のほうが香りを豊かに伝えます」。スタッフは驚きを隠せませんでした。デンマーク出身のコンサルタントが「ヨーロッパでも東洋の器と茶が注目されています」と語り、茶碗が甘口ワインの香りをより滑らかにし、口に含むと茶とワインが調和する――その瞬間、「茶」が主役になりました。

2021年10月、ミシュランは初めて東アジアの「食茶文化」を正式に評価し、フランス料理の三ツ星体験に新たなページを加えました。

ミシュラン三ツ星を持つ女性シェフ、アン=ソフィー・ピック氏は、台湾のゲストシェフが推薦した「プーアル茶」が料理に合わないと判断し、ワインのように東洋の果実香を分析して選定。蜜香を持つお茶をフレンチのアペリティフ代わりに用い、甘みから酸味へと展開する味わいを創出。私は塩味のホタテに台湾の「蜜香烏龍」を合わせ、その奥深い香りの層に驚きました。

2023年春、日本・東京のフォーシーズンズホテル内にある新たな三ツ星「SEZANNE」を訪れました。英国人シェフのダニエル・カルヴァート氏は中華と英国の料理を融合し、「Wine Pairing」と「Tea Pairing」を併用。ボルドーの名門ワイナリー「シャトー・オー・ブリオン」のワイングラスとともに、茶との共演が展開されました。料理の色彩や飲み物の組み合わせは見事で、熱帯雨林で飲んだ「乾梨(かんり)」の記憶も蘇ります。プーアル茶、白茶、蜜茶を用い、マンゴーや鳳眼果、台南の甘草スープとマッチするその演出には、まさにTeatasting.net 的驚きがありました。

日式、中式、スペイン、フランスと、世界各地のミシュラン料理が、茶を中心に華やかな進化を遂げています。ぜひ、手元にある烏龍茶、鉄観音、武夷茶で、あなたなりの「ティーペアリング」の世界をお試しください。料理と飲み物が「食べること・飲むこと」を超えて、風味を育み、香りを描き出す芸術へと昇華していく──それが「餐茶」の真髄なのです。


出典:明報月刊

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